AM 5: 00
리리스는 숙소의 주방에 와 있었다.
오늘은 발렌타인 데이. 소중한 사람에게 마음을 담아 쵸콜렛을 선물하는 날.
리리스도 소중한 사람에게 직접 쵸콜렛을 만들어주기 위해 여관 주인에게 주방을 빌렸다.
이걸 알고 있는건 여관 주인뿐으로, 동료들은 아무도 모른다.
리리스는 에이프런을 입고, 사전에 준비해둔 재료를 손에 들었다.
"몇번이고 연습했으니까 괜찮아."
모두한테 들키지않게 남몰래 연습하는게 큰일이긴했지만.
야영중에는 은밀히 과자책을 보면서 공부하는 수밖에 없었지만
마을에 들어온다음엔 본격적으로 쵸콜렛을 만드는 연습을 시작했다.
그런 와중, 냄새에 민감한 네이트나 먹을것에 낚인 소나 카뮤가 찾아오기도 했지만
어찌저찌 얼머무려 넘겼다.
"좋아! 그럼 당장 시작하자!"
리리스는 과자책을 팔락팔락 넘긴다.
연습은 했지만 만드는 법을 완전히 익힌건 아니다.
펼친 페이지에 실려 있는건
"이걸로 완성!"
표면에 가루설탕을 뿌리고 마무리한다.
완성된 카토 쇼콜라의 모습에 리리스는 활짝 미소를 띄었다.
남은건 컷해서 랩핑, 그러려던 참에 돌연히 주방의 문이 열렸다.
"후아아아암~~ 아, 배고파."
"에?"
"음? 리리스…? 아침부터 이런데서 뭘했어?"
문을 연 인물, 소가 하품을 피우며 안으로 들어온다.
그의 존재에 순간 사고가 얼어붙은 리리스였지만, 침착을 되찾고 소를 주방에서 쫓아내려했다.
"안돼안돼! 소! 더이상 들어오면 안돼!"
"어, 어이어이 왜그래? 나, 여기 있음 안되는거야?"
"안돼!!"
"그렇게 까지 분명하게 말하면 아무리 나라도 좀 상처입는데…"
리리스가 등을 떠밀며 즉답하자 소가 약간 침울해했다.
그러자 리리스는 다급히 얼머무렸다.
"미안! 그럴 생각은 아냐! 그런건 아닌데…"
소를 상처입힌건가 해서 미안해진다.
하지만 아직 그걸 소에게 보이고 싶지 않았다.
(하필이면 저 가토 쇼콜라를 건네줄 상대한테 들키다니, 어쩌지~?!)
리리스가 내심 갈등하고 있자니 갑작스레 커다란 손이 머리위로 부드럽게 내려않았다.
"농담이야. 내가 없었으면 하는건 리리스 뒤에 있는 저게 이유지? 오늘 발렌타인이니까…"
"우………"
소의 웃음이 눈부시다. 완전히 들켰다.
리리스는 체념한듯 어깨를 추욱 늘어트리고 소의 등에서 손을 땠다.
등뒤의 자그마한 압력이 없어진 소는 리리스가 만든 카토 쇼콜라를 말똥히 들여다본다.
"헤에, 엄청 맛있겠는데?"
"정말……?"
"정말로 진짜. 그래서…? 개인적으로 이걸 누구한테 줄건지, 엄청~~ 신경쓰이는데?"
"그, 그건…"
"그건?
소가 허리를 숙여 얼굴을 가까이해온다.
뒤로 물러섰지만, 등뒤는 요리대. 고개를 돌리지도 못, 변변찮은 변명도 떠오르지 않는다.
리리스는 얼굴을 새빨갛게 물들이면서 자포자기한 심정으로 소리쳤다.
"그건 소한테 줄 발렌타인 쵸코야!
정말! 사실은 깔끔하게 랩핑해서 건네주고 싶었는데! 아, 꺄악!!"
갑자기 소가 두 팔을 뻗어 몸을 꽉하고 끌어 안았다.
"땡큐, 리리스!!"
"소……"
소의 얼굴은 보이지 않는다. 하지만 기뻐보이는 목소리에 리리스도 작게 웃었다.
"저기, 지금부터 먹어도 될까? 이거 전부"
"엣? 이걸 전부 먹을거야?"
"당연하지. 리리스의 사랑이 담긴 발렌타인 쵸코라구. 다른 녀석들한텐 못줘.
으음…………, 이거 진짜 맛있다!! 완전 맛있어!! 이제까지 먹어온 케이크 중에서 젤로 맛나!!"
"너, 너무 호들갑이야……. 게다가 그건 원래부터 소를 위해 만든거야. 다른 사람들한텐 딴걸 준비했어."
"에~? 나한테만 주는거 아니였어?"
"모, 모두한테 여러모로 신셀 지고 있으니까! 깊은 의민 없어!!"
머리위에서 들려오는 불만스런 목소리에 리리스가 고개를 들자, 소가 히죽 웃는다.
"그렇단건, 내 쵸코엔 깊은 의미가 있단 소리지?"
리리스는 고개를 끄덕였다.
그러자 소는 보다 더 짙게 미소한뒤, 다시 리리스를 끌어안고 귓가에서 속삭였다.
"진짜 고마워…. 리리스의 마음, 분명히 받았어.
내 마음은 한달뒤에 100배로 되돌려 줄게. 그러니까…… 기대하고 있어, 응?"
리리스의 입술에, 소의 달콤한 입맞춤이, 쏟아져내렸다.
발렌타인 쵸콜렛을 완성시킨 리리스는 방으로 돌아와있었다.
테이블 위에는 쵸콜렛 쿠키가 들어간 다섯개의 꾸러미와 제일 좋아하는 사람에게 보낼 마카롱이 들어간 꾸러미.
누구한테 먼저 건네주러갈까 고민하고 있자니, 노크 소리가 들려왔다.
"리리스, 지금 괜찮아?"
"응, 괜찮아"
쵸콜렛에 몰두하고 있어서 아무런 생각없이 대답하자, 카뮤가 방으로 들어온다.
"리리스, 저기 말야……, 응?"
카뮤의 시선에 테이블 위에 못박힌다.
거기에 쵸콜렛을 올려뒀단걸 깨달은 리리스는 다급히 카뮤와 테이블 사이를 가로막았다.
"카뮤! 지금건 안본걸로해줘!! ……………… 무리겠지?"
"응. 나 똑똑히 봤는걸"
"우우…"
"그래서, 개인적으론 그 제일 깨끗하게 랩핑된 선물이 신경쓰이는데~"
"그건…"
카뮤거야, 라고 말하고 싶었지만 쵸콜렛을 들켜버린탓에 동요가 너무 심해 제대로 사고가 따라가지않는다. 곤혹스러워하고 있자, 눈앞에 핑크색 리본으로 귀엽게 포장된 사각의 상자가 내밀어졌다.
"자! 내가 주는 발렌타인 쵸콜렛!"
카뮤가 방긋방긋 두 손으로 상자를 내밀고 있다.
"에? 카뮤가…?"
"응! 내가 리리스한테! 발렌타인데이란건 좋아하는 아이한테 쵸콜렛을 보내는 날이잖아? 그러니까 나도 리리스한테 주고 싶어서!"
"그치만, 그건 여자아이가 남자아이한테 주는건데……?"
"에엣? 조금전에 마을을 걷고 있었더니 남자가 여자한테 쵸콜렛을 주기도하던데? 어.쨌.든! 내가 주고싶으니까 줄게!"
볼을 부풀리며 카뮤가 얼굴을 가까이댄다.
어린 생김새와 맞물려 귀엽다. 조금 핀트에 어긋난 생각을 하고있자니 그 표정이 진지한 것으로 변했다.
"저기, 리리스. 내가 하는 말…, 무슨 뜻인지 알지?"
언제나처럼 명랑하고 들뜬 목소리와는 달리 낮게 가라앉은 음성에 가슴이 뛴다. 리리스는 머뭇머뭇 카뮤에게서 상자를 받아들었다.
"고마워…. 설마 내가 받을줄은 꿈에도 생각못해서……… 너무 기뻐. 그, 카뮤의 마음도……"
"응! 나도 받아줘서 고마워!"
지금이라면 건네줄수있을지도 모른다. 카뮤가 고백해준것처럼, 리리스도 그에게 마음을 전해주고 싶었다. 리리스는 테이블 위의 마카롱이 들어간 쵸콜렛을 들고 카뮤에게 내밀었다.
"카뮤…. 이건 내가 카뮤한테 주는 발렌타인 쵸콜렛. 받아줄래?"
"그걸 나한테?"
"응. 이건 카뮤를 위해 만든 쵸콜렛이니까…… 이게 카뮤에 대한 내 마음이야"
"리리스…… 고마워"
카뮤가 뺨을 붉히며 부끄러워한다.
그리고 발렌타인 쵸코를 받아든뒤, 리리스의 뺨에 살짝 입술을 맞췄다.
"리리스의 마음, 확실히 받았어. 저기, 리리스. 같이 열어볼까?"
"응!"
두사람은 서로 주고 받은 상자를 열었다.
먼저 내용물을 확인한 카뮤가 환희했다.
"와아~! 마카롱! 색색들이 너무 귀여워!"
"처음엔 쵸콜렛만으로 할까했지만, 그럼 너무 재미가 없을것같아서 여러가지 마카롱을 만들어봤어."
"너무 기뻐! 정말 고마워!"
"카뮤도 고마워! 이건…… 머핀?"
카뮤에게 받은 상자속엔 쵸콜렛 머핀이 들어가있었다.
"응! 이 쵸콜렛 머핀, 이 마을 한정품인 모양이라서 쵸콜렛이 진해서 정말 달고 맛있대!"
"그렇구나. 진짜 정말 맛있어보여"
"아, 그렇지! 내가 주는 선물 하나 더!"
"선물?"
찬찬히 카뮤가 옆으로 다가온다.
아, 하고 생각했을때 이미 두 사람의 입술은 겹쳐져 있었다.
리리스는 마을 밖에 있는 작은 숲 속을 걷고 있었다.
그 손에는 꼼꼼히 포장된 꾸러미가 하나.
"이 근처에 있다고 들었는데…… 어디 있는걸가."
키리테는 매일 아침 일과로 단련을 하고 있었다.
이 마을에선 주민들에게 폐를 끼치지 않도록 마을 밖으로 갔다고 들었지만. 그게 좀처럼 보이지 않는다.
조금 빨리 걷자, 전방에서 뭔가가 바람을 가르는 소리가 들린다.
리리스는 퍼득 소리가 나는 방향으로 달려갔다.
"키리테!"
조금 트인 장소로 나가자, 거기에 찾고 있던 사람이 있었다.
허나, 그 직후 리리스는 눈을 크게 뜨고 멈춰섰다.
"리리스?"
키리테가 휘두르던 팔을 내리고, 검을 집어넣는다.
리리스는 눈을 둥그렇게 뜬채로, 우물우물 말을 꺼냈다.
"미, 미안…, 연습하는거, 방해해서……"
"아니, 상관없어. 그보다 무슨 일이지?"
"아, 저기… 그게말야……"
결국 리리스는 키리테한테서 시선을 때고 말았다.
그건 전부 키리테가 웃옷을 벗고서 상반신을 드려내놨기 때문이다. 옅게 땀이 스며나온 갈색의 피부, 칠흑색 머리칼이 희미하게 아침 이슬에 젖어있다.
(어, 어째서 위에 아무것도 안 입고 있는거지……?!
게, 게다가 지금의 키리테… 묘하게 색스러……)
처음 보는 모습에 리리스는 새빨갛게 달아오른 얼굴로 고개를 숙인다.
그럼에도 횡설수설 뭔가 말을 꺼낸다.
"저기…, 그… 키리테…, 춥진 않아……?"
"아아. 훈련중이였으니까. 추위는 느껴지지 않아."
"그, 그렇구나…"
"그래서, 무슨 볼일이지?"
키리테가 옷을 걸치며, 리리스에게 묻는다.
옷자락 스치는 소리가 드리지않게 되서 슬며시 고개를 들자, 평상시와 다름없는 키리테가 다. 리리스는 가슴을 쓸어 내렸다.
"응. 저기말야…. 키리테한테 건네주고싶은게 있어서."
"건네주고싶은것?"
근처에 있는 바위에 나란히 걸터 앉고서, 리리스는 들고 있던 꾸러미를 키리테에게 내밀었다.
"이거, 내가 키리테한테 주는 발렌타인 쵸콜렛이야. 받아 주면 기쁠거야……"
"내게…? 괜찮아?"
"그러려고 온 거니까…"
"그런가…, 일부러 고마워. 리리스……"
近くにある岩に並んで腰掛けると、リリスは持っていた包みをキリテに差し出した。
「これ、私からキリテにバレンタインのチョコレート。……受け取ってくれると嬉しいな」
「俺に……? いいのか?」
「そのために、ここに来たんだよ」
「そうか……わざわざありがとう、リリス……」
キリテがそっと手を伸ばし、包みを受け取る。
しかしその直後、バレンタインチョコを手に取ったまま動かなくなってしまった。
「キリテ?」
「あ、いや……バレンタインデーがどういうものかは知っていたが、チョコを貰うというのが初めてで……どうすればいいのかと……」
キリテの顔がほんのりと赤く色づいている。
(もしかして……キリテ、照れてる?)
リリスはなんだか嬉しくなった。
「それ、出来たてなの。今食べると、普通のチョコレートケーキとはちょっと違った食べ方ができるよ」
「そうなのか? では、今食べてもいいか?」
「うん!」
キリテが包みを開け、一緒に入れておいたフォークを手にとると、フォンダンショコラに突き立てる。
と、中からとろりとショコラが溢れだす。キリテはケーキに溶けたショコラを絡め、口にした。
「美味い……」
「本当? キリテってそんなに甘いもの食べないでしょ。だから少しビターにしてみたんだけど……」
「ああ、ちょうどいい。それに何よりも溶けたチョコレートが不思議な感じだ。
とても美味しい」
「良かった!」
「皆にも、もう贈ったのか?」
「え? ……ううん。その、一番にキリテにあげたかったから…… それに、皆にも作ったけど……それを作ったのはキリテにだけだよ……」
「リリス……」
恥ずかしさに耐えつつ想いを告げると、次の瞬間、目の前が翳りキリテとの距離がゼロになる。
重なる唇が離れると、キリテが微笑んだ。
「今、俺が出来る礼はこれくらいだが…… バレンタインには、ひと月後にお返しをする日があったな。
……その時は俺からの想いを受け取ってくれ。
俺の、リリスを想う……好きという気持ちを」
リリスはキリテと触れた唇を両手で覆う。
唇に残る柔らかい感触と甘いチョコレートの味が、いつまでも頭から離れなかった
仲間のうち、五人にバレンタインにと作ったチョコレートクッキーを渡し終えたリリス。
残りは本命のみ。その本命を捜してリリスは街外れにある橋へと来ていた。
リリス達が今いる街は、ダイナス程ではないが大きな街で、大通りでは夜遅くまで賑わっているが、外れまでいくと人はほとんどおらず、寂れているというわけではないが閑散としていた。
今いる橋も捜していた人物以外、誰一人いない。
「ネイト、ここで何してるの?」
「リリスか。俺はただ静かな所に行きたかっただけだ。
ここだと川の流れる音も聞こえて、落ち着くンだよ」
「確かにここは落ち着くね」
「だろ? ところでリリスは何しにここに来たンだ? あんたも静かな場所探してたのか?」
「違うよ。私はネイトを捜してたの」
「俺を?」
「うん。ネイトに渡したいものがあって……」
リリスはチョコレートムースの入った包みをネイトに差し出した。
「これ……ネイトにバレンタインのチョコレート。受け取って欲しいな」
「バレン、タイン……チョコレート………………って、なンだ?」
「えっ? ネイト……もしかして、バレンタイン知らない?」
「チョコレートは菓子のことだよな? でもバレンタインはわからねェ……」
「…………そっか、ネイトは人狼だもんね。
人間の行事に詳しくなくても不思議はないよね……」
加えて、ネイトは人間を好ましく思っていない。
仕事で街を訪れることはあっても、彼の職業は暗殺者だ。
極力人目につかないよう行動しているし、仕事を終えればすぐにその街や村から去る。
したがってネイトが知らなかったとしても無理もなく、リリスはバレンタインデーについて説明することにした。
それを聞き、ネイトはリリスから貰ったチョコレートを手の中で興味深そうに見回す。
「女が好きな男にチョコレートを贈る日、ねェ……
で、それが本命チョコっつって、それ以外の奴にやるのが義理チョコ。
人間の間では面白い行事があるンだな。……なあ、リリス」
「なに?」
「これはどっちになるんだ? 義理? 本命?」
「ど、どっちって……それは勿論……」
「勿論?」
ネイトが何か期待を込めたきらきらとした瞳を向けてくる。
リリスの視界の端でちらつくのは、ぱたぱたと振られる尻尾。
言葉にならない圧力におされ、リリスは小さく小さく言った。
「………………本命、だよ」
リリス本人にしか聞こえないぐらいの呟き。
しかし、人狼であるネイトの耳にはしっかりと届いていた。
するとネイトが照れ混じりに破顔する。
「へへっ、そっか! ありがとな! 俺もリリスのこと、大好きだぜ」
「!! あ、ありがとう。私も……好きだよ……」
何のてらいもなく告白され、リリスは一気に頬が紅潮する。
リリスも言葉にしようとしたが、声が尻すぼみになってしまった。
けれどネイトには聞こえていたようで、「おう」と返ってくる。
「なあ、これって今開けてもいいのか?」
「うん」
ネイトが早速リボンをほどき、包み紙を破く。
しきりに尻尾を振り、わずかに耳を伏せていそいそと箱を開けようとするその様は、まるで何が出てくるのだろうとわくわくとしている無邪気な子どもそのものだった。
(なんか、可愛いかも……)
箱の蓋を開けて中に入っていたチョコレートムースにネイトは両目をいっそう輝かせる。
そして添えられているスプーンでチョコレートムースを掬うと、ぱくりと食べた。
「……美味い。でも……」
「どうしたの?」
チョコレートムースを掬っていたネイトの手が止まる。美味しいとは言ってくれたけど、何か悪い部分があったのかと、リリスは不安に駆られた。
ネイトはスプーンを銜えながら、眉間に皺を寄せる。
「全部食べてしまいてェんだけどよ……勿体なくて食べたくないって気もするンだよな」
「じゃ、じゃあ私またネイトに作るよ! だからこれは、全部食べて欲しいな!」
「本当か!? それなら安心してこれ全部食えるな!
……あ、だったら俺、もうひとつ食べたいものがあるンだけど、いいか?」
「いいよ! 何が食べたいの? チョコレートのお菓子なら他にも作れるから!」
「俺が欲しいのはコレ」
ネイトがリリスの顎に指をかけて少しだけ上向かせ――リリスの唇に自身のそれを重ねた。
「ごちそうさま」
満面の笑みを浮かべるネイトに、リリスは真っ赤になって怒鳴った。
「こ、これは食べ物じゃないよっ!!」
「誰も食べ物なんて一言も言ってねェだろ?
えっと、今日のお返しをするのがひと月後のホワイトデーってやつだったか?
その時もちゃんとお返ししてやるからな。だからリリスも俺に礼を返せよ。お前の唇で」
「えっ!?」
言い返そうとしたリリスの唇は、ネイトによって再び塞がれた。
リリスは出来たバレンタインチョコを入れた袋を手に、宿屋の一室のドアを叩く。
すると中から声がかかり、部屋の主が姿を見せた。
「ナユタ、今少し時間いいかな?」
「それは構わぬが……では中で話そう」
ナユタに勧められ、部屋へと入る。
数日ここに泊まっているが、綺麗に整っている室内にナユタらしさが感じられる。
備え付けの椅子に腰かけると、二人の間に沈黙が流れた。
(持ってきたのはいいけど、どうやって渡そう……な、なんだか切り出しにくい……)
部屋の中は二人きりでバレンタインチョコを渡す絶好の機会だというのに、緊張からか、なかなか手も口も動かせない。
どうしたらいいのか悩んでいると、向かい側に座るナユタから声をかけられる。
「どうした? 何か困りごとでもあるのか?
無理には聞かぬが、私に出来ることがあるのならば言ってくれて構わぬ」
心配そうにこちらを窺い、自分を気遣ってくれるナユタに、リリスの緊張が解ける。
「ありがとう。そうじゃないんだ。あのね……」
今なら渡せる、とリリスが袋からチョコを取り出した時――
「おーい、ナユナユー! ウマい酒手に入れたから一緒に飲もうぜー!!」
勢いよくドアが開き、ソーが酒の入った瓶を片手に入ってきた。
ソーの勝手気ままな振る舞いにナユタが一喝する。
「ソー! いきなり部屋に入る奴があるか! 入る前にノックするのが礼儀だろう!」
「え~、いいじゃん。別に女の子の部屋に入るわけじゃあるまいし」
「他人の部屋を訪ねるのに男も女も関係ない! 常識だ!」
「悪い、ナユタ……俺が止める間がなくてよ……」
ソーの後ろから、申し訳なさそうに耳を垂らしながらネイトが現れる。
「ネイトもいたのか……いや、ネイトは悪くない。悪いのはソーだ」
「オレだけ悪者扱いかよー。ちぇー……ん? リリス、それなんだ?」
「えっ? あっ、これは……!」
急いでチョコを袋に戻し、背中に隠す。
しかし、ソーは今日が何の日が知っていたためすぐに検討がついた。
「はは~ん、さてはバレンタインチョコだな~。
いーなー、なあオレにもチョコくれねーのー?」
「そ、それなら、厨房に皆の分のチョコレートクッキーがあるけど……」
「マジ!? よっしゃ! 行くぞ、ネイト!!」
「はぁ!? おい、ちょっ……ひっぱンじゃねェ!!」
ソーがネイトの襟首を鷲掴み、ばたばたと部屋を出ていく。
開け放されたままのドアの向こうに視線を向けながら、ナユタは嘆息した。
「まったく……何しに来たのだあいつは」
「あはは……嵐みたいだったね……」
「付き合わされるネイトが哀れでならぬな。ところで……」
「何?」
「リリスが私に用があるというのは……その、バレンタイン、のことか……?」
「!!」
核心を突かれ、チョコが入った袋を持つ手に力が入る。
おそるおそるナユタを窺うと、自らの発言に恥ずかしさがあるのか、頬を赤くしてそっぽを向いていた。
リリスは袋からチョコを取り出すと、ナユタに差し出した。
「うん……ナユタにバレンタインのチョコを渡したくて来たの……」
「……そうか。で、では……ありがたく頂こう」
「う、うん。どうぞ」
ナユタが包みを受け取る。
その手つきはぎこちなく、渡した時に触れた彼の手はひどく熱を帯びていた。
(これは、喜んでもらってると思っていいのかな……?)
たどたどしい動作で包みを開くと、最後に箱の蓋を開ける。
ナユタは箱の中身を凝視しながら、ぽつりと呟いた。
「リリス、これはクッキーではないのだが……もしかして間違ったのか?」
「ううん。間違ってないよ……それはナユタへのバレンタインチョコだから……」
「私への……つ、つまり……私は他の者よりも特別扱いだと…… そう、思っても良いのか?」
「そういうことに、なるよ」
ナユタの問いにリリスは真剣に答えた。
そこだけは間違えないでほしい、と。
するとナユタがふっと微笑み、リリスの頬に手を添える。
「ならば、これは私なりの特別扱いだ……」
「え?」
ナユタが椅子から腰を上げ、テーブルを挟んでリリスに顔を寄せていく。
次に何が来るかわかったリリスは、ゆっくりと目を閉じた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ねえ、ナユタ……まだ、こうしてるの?」
「言っただろう? これが私なりの特別扱いだと」
「そ、そうだけど……」
真横から聞こえる声と吐息に、リリスは全身を更に硬直させる。
今、リリスがいるのはナユタの膝の上。
ナユタはベッドの縁に座り、リリスを横から抱きしめながら膝に乗せて、ゆうゆうとトリュフを食べていた。
体が燃えるように熱い。特にナユタと触れている部分が。
「何を固くなっている? 緊張しているのか? ならば、これでも食べて緊張を解け」
傍らに置いていたトリュフの箱をリリスの前まで持ってくる。
本当はナユタにすべて食べて欲しかったが、当の本人に促されリリスはひとつを摘まんで食べた。
「……美味しいか?」
「う、うん……美味しいよ」
「そうか。では私も頂こう」
そう言って、ナユタがリリスの指についたチョコレートを舐めとる。
リリスはぎょっとして、手をひっこめた。
「な、何するの!?」
「お前が美味しいと言ったから、私も味わいたくなったのだ。
さあ、まだあるぞ。リリス、どれが食べたい?」
「ど、どれって……!」
プレゼントしたトリュフは全部で八個。その内、食べたのは三個。
(ま、まだ五個も残ってる~~~っ! これじゃあ、私の心臓がもたないよー!!)
ナユタの特別扱いはトリュフがなくなるまで続けられた。
バレンタインデー終了まであと十五分。
リリスはまだ一人、一番渡したい人にバレンタインチョコを渡せていなかった。
彼の部屋は無人。聞けば朝早くに出かけていったらしいが、まだ帰ってきていない。
「もうすぐでバレンタインが終わっちゃう……」
部屋の前で待つこと数時間。リリスは途方に暮れていた。
そこへ、階段を上る足音が廊下に響く。あがってきたのは、待ちわびていた人だった。
両手に大きな袋を抱えていてちょっとかなり気になったが、今は会えた喜びの方が強い。
「ニコ!」
「聖女? このようなところで何をしているのですか? もう、夜も遅いですよ」
「それはこっちのセリフだよ! ニコこそ、こんな時間まで何してたの?」
「わたしですか? わたしは……と、立ち話もなんですね。どうぞ、部屋に入ってください」
「うん、それじゃあ失礼するね」
部屋に入ると、ニコが抱えていた袋を床にどさりと下ろす。
袋の中が気になったリリスは、思いきって訊ねてみた。
「ねえ、ニコ。その袋には何が入ってるの? この街で見つけたマジックアイテムとか?」
「いいえ、違いますよ。この袋の中に入っているのは……これです!」
ニコが袋の口を開ける。
と、中から色とりどり包装紙に包まれたの大漁の箱が出てきた。
大きさはまちまちで箱の形も四角いものや丸いもの、ハートの形をしたものまである。
「これって……もしかして、バレンタインチョコ?」
「その通りです!」
「え……ニコ、こんなにバレンタインチョコ貰ったの!?」
袋の中のものがすべてバレンタインチョコレートなのだとしたら、ざっと見てもその数は百はあるだろう。
リリスはチョコレートをニコから隠すように、両手をそっと後ろに回した。
(どうしよう。まさかニコがこんなにたくさんバレンタインチョコを貰ってたなんて……
これじゃあ、私のなんて……)
明らかに自分のものよりも豪華で綺麗なものがいくつもある。
リリスは激しく落ち込んだ。
すると、いつの間にか眼前にまで来ていたニコがリリスを半眼しながら覗きこんできた。
「聖女は何か勘違いをしていませんか?」
「勘違い……?」
「これらのチョコレートは貰ったものではありません。わたしが自ら購入したものです」
「………………え? ニコが、自分で買ったの……? これ全部?」
「はい、そうです」
「ええええぇぇぇっ!?」
「? 何をそんなに驚くんです?」
飄々と言ってのけるニコにリリスは絶句した。
普通は自分でそんなにたくさんのチョコレートを買わない。
だがニコだから、と言われれば納得しかけてしまいそうで、またなんとも微妙な気持ちになる。
(でも、自分で買ったってことは、誰かから貰ったわけじゃないんだよね……良かった……)
他の女の子からの贈り物ではないとわかり、リリスは安堵する。
「ねえ、ニコ。なんでこんなにいっぱいバレンタインチョコ買ったの?」
「バレンタインには、普段ないような様々なチョコレートが売り出されるでしょう?
それがどのようなもので、どれくらいあるのかと、わたしの好奇心が疼いたのです」
「へ、へぇ……好奇心が……」
「はい。それからお店やチョコレートの大きさ、形によっても梱包の仕方は多岐に渡っています。
それらを見比べてみるも面白いかと思いまして。あ、聖女も一緒に食べますか?
さすがにこれだけのチョコレートを食べきるには一人では時間がかかりますからね」
二人でもキツいし、いくら甘いものが好きでもこれだけの量はさすがに遠慮したい。
やっぱり彼らしい理由だったとリリスが内心納得していると、ニコが早速チョコレートを食べようと包みを開けている。
リリスは慌てて持っていたバレンタインチョコレートをニコに勢いよく突き出した。
「ニコ、それを食べる前にこれ食べてほしいんだけど……!
私からニコにバレンタインのチョコレート!」
「…………。それは、つまるところ聖女がわたしへの溢れんばかりの愛を形にした、究極のプレゼント……ということですか?」
「あ、溢れんばかりの愛……っ。ま、まあ……はい。……ソウデス」
恥ずかしさのあまり、リリスは肩をちぢこませた。
ニコはそんなリリスを気にすることなく包みを開ける。
中にはハート型の生チョコレートが四つ。
「ほう、ハート型のチョコレートですか……まさに愛ですね!
ありがとうございます、聖女! ではさっそく聖女の愛、食させていただきましょう!」
チョコレートのひとつを摘まみ、口に入れる。
「どうかな……? 美味しい?」
「ふむ……聖女の愛はこのような味がするのですね……」
「わ、私の愛の味? それって、どんな味なの……?」
「味ですか? こんな味ですよ」
ニコがリリスの後頭部に手を回し、口づける。
唇に感じる柔らかい感触に次いで、甘いチョコレートが口の中に広がった。
二人の口内からチョコレートがなくなると、ようやくニコが唇を離し微笑する。
「どうです? これが聖女の愛の味です。
そしてこれが……わたしから聖女へのチョコの返事と――愛の味です」
二度目のキスはさっきよりも甘くて濃厚なキスで――バレンタインデーが終わるまで続いた。
日付が変わるまで、あと――…
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